シュレック・ザ・ミュージカル
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シュレック・ザ・ミュージカルが8月に上演されるという情報がネットに流れたのが5月下旬、しかも全キャストのオーディションをこれから行うというのだ。そして6月下旬にキャスト発表のニュース。この時点で上演まで残り2ヶ月。もちろん制作陣はもっと前から準備を進めていたのだろうが、ちょっと過去に記憶がないほどスピーディな展開だ。発表から上演までの期間が短いのは観客にはすぐに見られるというメリットがある反面、十分な広報期間がないという点でチケット販売で苦戦を強いられそうだ。ちなみに全キャストをオーディションで募集するというのはかなり珍しいらしい。確かに2023年夏上演予定のムーラン・ルージュのオーディション募集要項をみてもサティーンやクリスチャンなどのメインキャストは対象外だ。やはり大予算大作の主役クラスには実力だけでなく集客力も求められるのだろう。
内容以外の面にも興味津々だったシュレック・ザ・ミュージカルを見てきた。まず全体的としてはまあまあ良かったと思う。舞台セットが少し寂しく背景をプロジェクションマッピングに頼りすぎなのは残念だが、今回のシュレック・ザ・ミュージカルはS席8800円、A席6000円、しかもS席には子供料金4000円の設定があるのだ。この値段と2週間という上演期間を考えるとあまりお金をかけられないのも仕方がないと納得できる。その一方で全員オーディションで選ばれたキャスト達はとても良かった。シュレックの楽曲はポップス系で歌唱力絶対という作品ではないが、それでも歌がうまいキャストが集まると気持ちがいい。(公演直前の募集に応募できる人達に実力がある人が大勢いるという日本ミュージカル界の状況をどう捉えるべきなのかは分からないが…)主演のシュレック役は本役の方が検査陽性で出演不可になったため本来狼役だったアンダーの方が出演だった。初日公演の配信で本役の方も見ていたのだが特に遜色はなかった。少し疑問に思ったのがトークで2日で準備したと話されていて、元々アンダーだったのに準備に2日必要という部分。(他の役も全訳アンダーがいるそうだ)もちろん2日で準備されたのはすごいことだし本番2回目の公演とは思えない出来だったが、すぐに出られないアンダーシステムはまだ十分とは言えないのでは?おそらく2日で全くの白紙から準備したわけではないがリハーサルなどを必要としたと推測する。オーディションからの準備期間の短さと2週間という公演期間を考えるとアンダーの方まですぐに出られる状況に持っていくのは難しいのだろう。とはいえ日本でも普及しつつあるアンダーやスウィングのシステムがうまく定着し、いざというときによりスムーズに公演が行えるようになることを願う。
フルバージョンというかBW版との違いは
- カット曲がある
ドンキーの曲”Don’t Let Me Go” 、フォークワード卿の”The Ballad of Farquaad”、シュレックの”Build a Wall”、カーテンコール後の”I’m a Believer” - 各ナンバーもかなり短縮されている
“What’s Up Duloc?”, “I Know It’s Today” , “Morning Person”(タップパート)は確実で、多分”Travel Song”, “This Is How A Dream Comes True”なども一部カットされているように感じた。他にもあるかもしれない - ドラゴンの曲”Donkey Pot Pie”が”Foever”に変更(これはBWの後のツアーから)
- フォークワード卿にフィオナ姫の存在を伝えるのが魔法の鏡からジンジャーブレッドマンに変わっている。(マカオで見たツアー版もこれだった)
- Freak Flagにシュレックが登場する(本来はピノキオメインのナンバー)
大きな違いはこのぐらい。(ほかにも細かい違いはあるかもしれない)
色々あった変更点だが気になる点がいくつかあった。
まず”I Know It’s Today”、塔に幽閉されたフィオナ姫が時間経過にあわせて初期中期後期の3人で1コーラスづつ歌うナンバーだが、最初の2人がワンコーラスにまとめられていたので面白さが半減していてさらに分かりにくい。
次に”The Ballad of Farquaad”、フォークワード卿が父親への思いを歌うナンバーなのだが、これをカットすることで彼が父を毛嫌いしていることが伝わりにくくなっていると感じた。
そして”Freak Flag”、これはシュレックの家がある沼地で待つおとぎ話世界の住人たちが歌うナンバーで本来シュレックは登場しない。シュレックが戻る前にこのナンバーで彼ら自身が自尊心を取り戻すことに大きな意味があるのだが、この曲をシュレック込みのナンバーにしたのははっきり言って改悪だと思う。そもそも原作アニメではこの曲に相当するシーンは無い。抑圧されたマイノリティが誇りを取り戻すこのナンバーはミュージカル版独自のメッセージを伝えるものだけにシュレックの物語とは分けてほしかった。
こちらの記事によるとプロデューサーは仕上がりには満足していてフルバージョンでの上演が現実的になったと考えているようだ。空席がかなり目立つ客席の状況から正直フルバージョンの上演は難しいだろうと考えていた。キャスト面では大満足な公演だっただけに、本当に実現するのであればさらに良いものに仕上げてほしい。