My Fair Lady

   

決定的ネタバレあり。
既に見に行くと決めておられる方は観劇後に読まれることをおすすめします。(あと何度も書き直すと思います)

Bartlett Sherの演出にハズレは無かった!これにつきます。

彼が演出したKing and I, Fiddler on the Roof は本当に素晴らしかった。
King and I の”I Whistle a Happy Tune”序曲の間は見えていたオーケストラを屋根と共に一気に覆い隠す船のせり出し、Fiddler on the Roof では全くセットがないステージに舞台奥の階段からアナテフカの住人が陽炎のように現れる”Tradition”、どちらも鳥肌が立つほどの衝撃を受けました。
共に冒頭で心を鷲掴みする演出で、それに比べると今回のMy Fair Ladyは丁寧ではあるがごく普通の演出で気が付くと1幕は終了。でも今回は2幕に仕掛けがありました。

2幕最初の場面はレディとなったイライザの舞踏会デビュー。
ワルツを踊るアンサンブルが左から次々に登場する一方で、舞台右奥からひな壇に乗せられたオーケストラが現れるのです!
2F席最前列に座っていたので慌ててオケピットを覗くと、そこはもぬけの殻。またしても鳥肌ものの衝撃を受けましたよ。
舞台上にオーケストラを配置すること自体は珍しいことではありませんが、1幕ではオケピットの中にいたオケをこの舞踏会の1曲のためだけにセットまで用意して舞台に上げたのです。
実際、この後オケピットに戻りますからね。単に幕が上がると舞台にオケがいたというわけではなく、ワルツの途中で舞台奥の仕切りが上がり前方にオケがせり出してくるわけですから、演出としてインパクトを与えるためなのは明白。この人は本当にこういうパンチのある仕掛けを作るのが上手い。

舞踏会が終わり屋敷に戻って祝杯を上げるヒギンズとピカリング大佐。一方でイライザは自分が以前とはすっかり変わってしまったことに不安を覚え、更にはヒギンズが自らの成功に酔いしれるだけで彼女にはねぎらいの言葉すらないことに腹を立て、教授とやりあうシーンに続きます。映画でもあったシーンです。
自分の身につけている服や宝石は全て与えられた物で、元々持っていたものはなにもないと教授に食って掛かるのですが、教授はイライザに服はやるが宝石は借り物だから返せと言い放つ。
身につける宝石の中でイライザがしている指輪は唯一借り物ではなく教授に買ってもらったものなのですが、その指輪もお返ししますというイライザに教授は指輪を投げつけ部屋を出て行く。
イライザはその指輪を探して拾います。映画では再び指輪を身につけ大切にしながらもヒギンズの屋敷を去るわけですが、ここでもサプライズが。

今回のリバイバル版、イライザは一旦は拾った指輪を客席に音が聞こえるほど強くテーブルに叩きつけ屋敷を出て行く。
え?これってもしかして…

イライザの父ドゥーリトルの”Get Me to the Church on Time” 結婚式を上げるために教会に行く前に酒場で騒ぐ有名なシーンでは、ドラッグクイーン的な女装アンサンブルが踊ります。
舞台のMy Fair Ladyを見たのは初めてなのですが、おそらくこれもこれまでにはない演出ですよね?時代的に少なくともドゥーリトルが飲んでいたような一般的な酒場にドラッグクイーンがいると思えないし。
この場面は見ごたえがありものすごく盛り上がります。若干ショーストップ気味で、さすがはNobert Leo Butz(生で見たのは初めて)だと感激しました。

このあたりまできて確信したのです。
1幕がオーソドックスで手堅くはあるが地味な造りで、2幕に冒頭のオケのように派手な仕掛けやこれまでのMy Fair Ladyではおよそなさそうな演出を入れてあるのは意図的なものだと。
では何のために?ヒントはありました。大半の観客は少なくとも映画のMy Fair Ladyは見ているはず。であれば、先に述べたヒギンズに貰った指輪を残して屋敷を去る場面で疑念をいだいたに違いない。
そんなこんなでドキドキハラハラしながら、ついにたどり着いたラストシーン。
初めて屋敷に来た時のイライザの声を蓄音機で聞くヒギンズのもとにイライザは再び現れますが、それは別れを告げるため。
今回のリバイバル版では、イライザはヒギンズの元を去り物語が終わるのです。

かるく調べてみると、マイ・フェア・レディの原作であるピグマリオンではイライザはヒギンズの元を去る結末だったようです。NHKBSで見た石原さとみ主演のピグマリオンもそうでした。
でも商業演劇としてはハッピーエンドの方が受けが良いらしく、原作者のバーナード・ショウの意に沿わない形でイライザはヒギンズの元にもどり二人は結ばれることを示唆するエンディングに変えられたりしていたようで。映画もそうだし、元のBW版もしかり。
でも女性の自立をテーマにした作品を現代に上演するにあたって、流石にこのエンディングはどうなの?という思いがあったんでしょうね。
そういえば、Fiddler on the Roof でもラストに変更点がありました。あの変更はあまり好きではなかったのですが、今回は正解かなと思います。
観劇前に映画を見直した時も、ラストにイライザが戻るのはどうなんだろう?と感じましたし。

1幕はこれまでの古き良き時代のMy Fair Lady を見せ、2幕では現代に合わせてブラッシュアップした新しいMy Fair Lady を提示してきた。
物語としてはエンディングを変えただけですが、演出全体でそのことを強調しているわけです。
リバイバルの演出を手がける際には、何かしらの現代性を持たせるのがBartlett Sherの意志なのかもしれません。
King and I にもあったのだろうか?(ロンドンで見る方、気付いたことがあったら教えて下さいね)

今年のトニー賞リバイバル作品賞はMy Fair Lady で決まり!…といいたいところですが、Carouselも素晴らしかったんだよなぁ。
俳優陣の印象はCarouselの方が良かったぐらい。My Fair Lady は演出は最高でしたが、役者の印象は比べると弱かった。

Fiddler on the Roof を見た時に、演出と同じぐらい感銘をうけたのが役者の力でした。
元々映画版の印象が強かったのですが、観劇中に映画との比較を許さず塗り替えるかのようなパワー、これがオリジナルキャスト(というか一流)の凄さか!と感じたのは忘れられない。
同じ旅行中にPapermillで見たProducersが面白かったけど、主だった出演者は映画を超えられないというか同系統の演技に感じたのとは対象的でした。
そういう意味では今回のMy Fair Lady も映画との比較を許さないほどのパワーが出演者にあったかというと、ちょっと残念な感じが拭えません。

とはいえ、トータルでは大満足のMy Fair Lady おすすめしなくても皆さんご覧になられるでしょうが、是非劇場に足を運んで生で体感してください!
冒頭の注意書きと矛盾しますが、見る前に読んだあなたへw

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