Harmony

   

第二次世界大戦前のドイツで結成されたコーラスグループ Comedian Harmonists の活動停止までを描いた作品。
こう説明すると、ジュークボックス・ミュージカルのように聞こえるが、楽曲はBARRY MANILOW作曲、BRUCE SUSSMAN作詞(脚本も担当)で完全なオリジナルミュージカル。それがこの作品の最大の特徴だと思う。

有名ミュージシャンの半生を語る伝記型ジュークボックス・ミュージカルは一つのジャンルとも言えるほど数多く作られているが、Harmonyは脚本構成が伝記型ミュージカルのフォーマットであるにも関わらず楽曲はミュージカルのためのオリジナルである。そこがまず疑問だったのだが、どうやらComedian Harmonistsは自分たちのオリジナル楽曲ではなく、昔から歌い継がれている伝統的な歌を歌うグループだったようだ。実際、劇中でもそういうナンバーを歌うシーンはあるが、それはごく一部にとどまっている。

その代わりに、各メンバーの出会いや、劇中で取り上げられる2人のメンバーのそれぞれのロマンスなどコンサートシーン以外の場面でもミュージカルのオリジナルナンバーが歌われる。伝記型ミュージカルに形を取りながらも、彼らの楽曲に縛られたジュークボックス・ミュージカルではないため、歌によって物語を進めることが容易で、ある意味普通というか正統派のミュージカルとして作られているのだ。

ドイツを拠点にしていたComedian Harmonists はヨーロッパ中で人気となり、アメリカに進出するまでに至ったが、その栄光は短い期間であったようだ。その原因はドイツにナチス政権が生まれたことによる部分が大きい。6人のメンバーのうち3人がユダヤ系で更に残り3人の1人はユダヤ人女性と結婚していたからだ。物語序盤からグループのサクセスストーリーと並行してドイツ国内の状況も描かれており、最終的に辛い展開になることは容易に想像できるのだが、前半はコメディ調で進行し一幕最後がグループの栄光の頂点になっている。伝記型ジュークボックス・ミュージカルと似た作りになっているが、通常ラストシーンに持ってくる集大成のライブなどは存在しないはずで(仮に予習していなくてもそういう展開にはなりそうもないもないのは分かるはず)、いったい二幕はどうするのか?と期待が高まるインターミッションだった。
(あんまり書くとネタバレになるのでストーリーの話はこのぐらいでw)

物語は年老いた1人のメンバーの回想形式で進行するが、これがとてもうまく機能しており、二幕でのコンサートシーンはそう来るのか!と熱くなりながら号泣した。Comedian Harmonists はかなりの人気があったようだが、活動停止後は復活することもなく戦後は忘れ去られた存在だったようだ。私も存在すら知らなかったし(WIKIには日本語ページもない)、BWの観客にとってもそれは同じだと思われる。二幕の最初に派手なシーンがあるが、これが実際には存在しない出来事で、と観客がグループのファンではないから引っ掛けられるはずと思惑と、暗くなる二幕冒頭にはビッグナンバーを入れたい作劇上の都合が上手く噛み合っていた。(直後にフェイクであることは語られる)

伝記型でありながらオリジナル楽曲で制作することで、メンバーの恋人のナンバーなども用意しやすくジュークボックス・ミュージカルの弱点を上手く補えており、実在のミュージシャンの半生を語る手法としてジュークボックス・ミュージカルは最適とは言えないのではないか?とも考えたが、逆に制作側が語りたいことは忘れ去られたComedian Harmonists の紹介というよりナチス政権に翻弄されたユダヤ人の物語であってComedian Harmonists の存在はそこに上手くハマっただけともいえる。

RUSHチケットが$18と破格の安さなのも、題材の知名度の低さと見てもらえさえすればという作品に対する自信の現れだと思う。必見の出来だった。

  • 夫であるナチス将校とともにコンサートに来ていた彼らの大ファンである女性がメンバーにレコードにサインを貰うシーンで6人全員ではなく5人からしかサインを貰っていなかったが、何らかの意味があるのか見間違いか?
  • ジュークボックス・ミュージカルならカテコのあとにお馴染みのナンバーでミニコンサートがお約束。当然それはないのだが、メンバー全員での合唱シーンはそのフォーメーションと退場の仕方を含めてかっこよく熱いシーンだった
  • 語り部である年老いたラビが回想シーンでしばしばメンバーに絡む様々な人物に扮して出てくるのがおもしろいが、実際の出来事というより彼の主観的記憶によるものであることを示すためかな。
  • 重要な場面ではラビ以外のセリフも老ラビが話したあとに回想シーンの人物が話す手法や、本当はこう言うべきだったと考える老ラビが話すセリフと若いラビが話す台詞が違う演出も同じだろう
  • ラビの恋人役がなんか見たことあるような…あ、シエラっぽいんだ!と思ったらシエラ本人だった。何度か見ているのに間抜けすぎw
  • Funny Girlの再演でビーニーのアンダーで彼女より良かったともいわれるジュリー・ベンコもメンバーの奥さんであるユダヤ人役で出ていた。内容的にはシエラとWヒロインで彼女も上手かった。
  • どのぐらい続くのだろう?何年もロングランするのは難しいと思うが…$18のRUSH作戦などが上手く機能して少しでも長く続くことを祈る。

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