Mrs. Doubtfire

   

急遽トニー賞授賞式前の前のクローズが決まって焦ったが、ちょうど渡米時期が上演最終週に重なったために見逃さずにすんだ。しかも見たのはクロージングナイト!

トニー賞ノミネートも主演男優の一部門のみとさっぱりのため、よほど微妙なできなのかなと想像していたが全くそんなことはなかった。ミュージカルシーンの入れ方もうまくて、序盤にある主役のダニエルが特殊メイクアーティストである兄フランクの力を借りてミセス・ダウトになるシーンを筆頭に、大勢のアンサンブルキャストが出てくる楽しいナンバーが多くて全編を通して見ごたえがある。この手の映画原作ものの中ではかなり上手くミュージカル化しているし。ファミリーミュージカルとしても文句なしだと思う。

時代設定は現在に変更されており、電話はもちろんスマホだし、料理ができないダニエルがミセス・ダウトとして頼るのがSiriだったり、勤務先のTV局でマンネリ化した教育番組のテコ入れに見出される場面で彼が使っているのがループミュージックを作成する機材だったりする。ここも上手くてSiriが再生するYouTubeの料理動画がそのままアンサンブルパフォーマンスになり、ダニエルが一人でボイスパフォーマンスを多重録音していくさまも主演Rob McClureの芸達者ぶりを見せる場面になっている。そういう細かい変更はあるものの物語は概ね原作映画どおり。ただダニエルの兄フランクに同性のパートナー、アンドレ(来日Kinky Bootsでローラ役のJ. Harrison Gheeだった!)が設定されていて、この2人がダニエルの生活環境をチェックする家庭訪問員と関わりを持ったことをきっかけにラストに養女として赤ちゃんを迎えるというちょっとしたエピソードの追加は多様化した現代の家族にあり方に寄せた結果かもしれない。

楽曲も良かったので調べてみると作詞作曲担当 Karey Kirkpatrick, Wayne Kirkpatrickの2人はSomething Rotten!も手掛けていて、Karey KirkpatrickはJohn O’Farrellと脚本も兼ねていてこれもSomething Rotten!と同じ。通りで好みなわけだ!このチームには今後も注目したい。

Something Rotten!といえばダニエル役のRob McClureはオリジナルキャストではないものの主役のニックを演じていたようだ。ちなみにRobは現在BWで再上演されているBeetlejuiceにもアダム役(幽霊夫婦の夫側)出演していたのだが、今回は当然主演のMrs. Doubtfireを選んだ結果の早期クローズがBeetlejuiceは収録の噂があるだけに残念すぎる。今からでもBeetlejuiceに戻ってくれないだろうか?(まあありえないだろうが)

トニー賞受けするタイプの作品ではないとはいえノミネートが主演男優1部門のみはあまりにも寂しい。この作品は本当に逆風続きで、2020年3月9日にプレビューを開始するもわずか3回の上演でロックダウンにより休演、その後2021年10月21日二プレビューを再開し12月5日にオープニングナイトを迎えるも1月には感染者数増加の状況を受けて9週間の休演を決断。ようやく4月半ばに再開するも1ヶ月後には5月末でのクローズが決定。上演期間は計3ヶ月程度なので興行的には間違いなく失敗だが、クローズのアナウンスと同時に秋にWE公演と来年に米国内ツアーを行うことを発表しており、プロデューサーは作品内容にはある程度自身があるのではないかと思われる。最近だと同じようにトニー賞授賞式前に散ったAmelieやTuck Ever Lastingは国内ツアーさえ行っていない。主な敗因は作品内容よりもBWを取り巻く現在の環境によるところが大きいと考えているからBWではクローズして再起を図るのではないだろうか。もちろん手直しはあるだろう。上演されていたソンドハイムシアターはBWでは大きめの劇場で舞台セットも豪華でアンサンブルキャストも多かった。BW版の苦戦を踏まえるとこの辺りに手を入れてラングコストを抑える変更を加えるのは間違いなさそう。(Legally BlondeもWE版ではコストカットしていた)そういう意味では豪華なBW版を見ることができたのは本当に幸運だった。

  • 個人的には絶賛に近いんだが、よくよく考えると生活力0のダメ男が身の回りのことができるようになっただけで許される(流石に元サヤには戻らないが)というのは、いくらコメディとはいえ中年のおっさん主人公の成長がたったそれだけ?と感じても当然かもしれない…
  • 主演のRob McClureは本当に芸達者!Beetlejuiceも良かったけど、主演の今作では全編を通じて大活躍だった。次回作にも期待大だね。
  • 連日TKTSで半額チケットが出ておりデジタルRUSHも販売されていたが、最終日朝9時のデジタルRUSHは確保でなかったため少し危機感を覚え、テレチャージを観察しているとどんどん座席が減っていくため10時過ぎにTKTSアプリで最終公演のTKTS販売がないことを確認してすぐテレチャージでチケットを確保した。その時点でおそらく残数20席程度だった。手数料込みで$247とヒュー・ジャックマンの次に高いチケットになったが、サイドブロックとはいえD列というステージ間近の席が押さえられたので結果的には良かったのだろう。
  • さすがクロージングナイトというべきかあちこちショーストップ気味でめちゃくちゃ盛り上がっていた。短命作品とはいえこのショーが大好きなファンも多いんだね。愛されてる。
  • 原作の映画を見ておけば問題なくついていける。まあまあ英語も聞き取れた。
  • ショーのラストにTV番組でミセス・ダウトが両親が離婚したという視聴者ケイティからの手紙に答えるシーンがある。カテコの挨拶でロブが自分に届いた手紙を紹介するのだが、手紙の主はケイティで…ここは泣けました。動画があるのでぜひ御覧ください。
FINAL Mrs. Doubtfire curtain call + speech

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