現代の価値観+古臭い演出=カッコいい? Be More Chill

      2019/03/17

ネガティブなオタク主人公がこのまま惨めな負け組人生を送りたくないと怪しげな錠剤SQUIPに手を出し、親友を切り捨て校内ヒエラルキー上位に食い込むも充実した生活は送れずに…というよくある物語。ではあるが現代的な価値観を反映している点が目新しく感じた。
あらすじはこちらのサイトで。

ありきたりなストーリーではあるが…

一番驚いたのが主人公Jeremyが憧れるヒロインChristineの設定。Jeremyがどう思っているかはともかく、Christineは決して高嶺の花ではない。校内で人気が高い女子は他に2人も出てくるし、Christineは不思議系といえば聞こえが良いけど、彼女のナンバー”I Love Play Rehearsal”ではかなりぶっ飛んだ描写をされている。演じている方も決して美人タイプではないし、なんとアジア系なのだ。ちなみに校内ナンバーワンのイケてる男子は黒人で、どちらも間違いなく意図的な配役だろう。
Jeremyもうだつの上がらない父親のようになりたくはないとは言うが、人気者になりたいとまでは考えておらず、最初のナンバー”More Than Survive”では

I don’t wanna be a hero, just wanna stay in the line.
ヒーローになりたいわけじゃない。普通でいたいだけ。

と歌う。SQUIPの力でスクールカースト上位に仲間入りし一時は人気女子のBrookeと付き合うものの、Jeremyの最終目標はあくまでChristineと仲良くなることであって、モテるようになったからといって他の女子に目移りしたりはしないのだ。

この辺の描写が新しいというか現代的で、そこが若者に絶大な支持を受ける要因なのだろうか?と考えながら見ていた。もう年寄りに近づきつつあるので、正直わからないw

懐かしい未来像

劇中世界は現代のはずだが、SQUIPという錠剤型コンピューターが登場することもあり全体的に近未来を感じさせるような演出になっている。ところがその未来感を表現する演出が古臭い。
SQUIP関係の演出はマトリクス的なビジュアルでお約束ではあるが今更感が漂う。Jeremyはゲームオタクのためゲーム風演出も登場するがこれもファミコン風だし、楽曲にもいわゆるピコピコサウンドを取り入れている。極めつけは効果音に使用されるテルミン(という楽器)。テルミンのサウンドでSF未来を表現って古すぎるだろ!!!w いや冗談抜きでBe More Chillに熱狂している(らしい)若者にはテルミン≒SF未来は通用しないのでは?
ちなみにSQUIPは日本製である。事前に日本ネタが入っていると知った時は正直ちょっと嬉しかった。だけど立て続けに古臭い未来像を見せられることで、日本が最先端というイメージが一昔前のものだからこそ日本が選ばれたわけだ!と思い至りちょっと複雑な気分。実際SONYやNINTENDOがクールみたいな価値観は今の若者はもっていないはず。ほとんどのスマホは中国製なんだから、世界の若者のハイテクイメージはもはや中国のはずだよね。

こういった古臭い未来演出は若者世代には馴染みがないから一周回って新鮮でクール?それともダサかっこいい?

テーマはアップグレード?

じゃあなぜ新しい価値観を反映したストーリーが古臭い未来像を思わせる演出で語られるのか?その答えはUpgradeにある。
1幕ラストの”Upgrade”はSQUIPにそそのかされ親友のMichaelをイケてない過去として切り捨てアップグレードしよう!というナンバー。もちろん最終的には今の自分を肯定しMichaelとも仲直りする。だから序盤ではJeremyが切り捨てるこれまでの日常を象徴する古臭さ、そして後半には否定されるSQUIPだからマトリクス的古臭い未来像として演出が機能しているのではないか。最終的にJeremyはSQUIP依存から脱却するが、当然そこには自身の成長=真のアップグレードがある。
さらに妄想すると、ありきたりともいえる若者のストーリーであっても根底に流れる価値観はアップデートしていこうという制作サイドの意志が込められているような気がする。

最後に

深読みし過ぎな気もするが、観劇中もその後も様々な考えを巡らせられて非常に印象に残る作品だった。そういう意味ではとても面白く見てよかったと思える作品だが、リピートしたいかというとそうでもない。好みが分かれるタイプの作品だと感じた。とはいっても今年のトニー賞に大きく絡むことは間違いないので、好みにかかわらず見るべき作品ではある。

一つ心残りなのが、Michael役がアンダーで本役のGeorge Sarazarが見られなかったこと。
MichaelはJeremyと同じ負け組オタクだけど自分を卑下することなく現状を受け入れている。そのMichaelが親友のJeremyに切り捨てられたことで、初めて現状を嘆く”Michael In The Bathroom”はおそらく劇中で最も盛り上がるナンバー。アンダーのTroy Iwataには全く不満はないがMichaelにはJeremyに勝るとも劣らない人気があるようで、その人気を作り上げたGeorge Sarazarは確実にトニー賞助演男優賞にノミネートされるだろうし、受賞の可能性も十分ありそう。そうなるとトニー賞予想のためにはGeorgeは見ておくべきで、次回BW時に枠の余裕はありそうではあるが…どうしたものか?

Be More Chill Lyceum Theatre 2019/2/17 Sun 19:30

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