Spongebob Squarepants

      2018/09/15

2018/9/16のクロージングデイが間近に迫ったSPONGEBOB SQUAREPANTS
ながらく書きかけで放置していたが閉幕前に仕上げておく。

プレビュー中の2017/11/18とトニー賞前の2018/4/8の計2回見ることが出来た。
アニメは予習のためにDVDで何話か見た程度なので、スポンジボブのファンではなくミュージカルオタクとしての感想。
アニメとの関係など、見当違いな意見があるかもしれないが許して欲しい。(コメントで教えていただければありがたい)

ストーリーや主演のEthan Slaterを始めとする俳優陣の魅力についてはボルさんの愛あふれるブログが詳しいので、そちらを見ていただきたい。
ここでは主に演出面の魅力について語っていくことにする。

効果音の効果

個人的にはスポンジボブ・ミュージカルの魅力の3分の1はココにある。
この作品はミュージカルとしては驚くほど効果音を多用している。
着ぐるみじゃなく、擬人化することで俳優たちがアニメのキャラクターをそのまま演じるこの舞台がアニメの世界と地続きに感じられるのは、この効果音による部分が大きい。
実写映画や舞台で効果音的なSE(サウンドエフェクト)が一切利用されていないわけではないが、アニメは実写に比べると特徴的な効果音を多用する傾向がある。(ミューオタになる前はアニオタだったのでアニメのこともそれなりに分かるつもり)
その効果音を取り入れたことで、この舞台はアニメの世界と違和感なく捉えられるのだろう。
同じアニメ原作であるディズニー系ミュージカルでも効果音の存在をここまで意識させられたことはない。

動画はトニー賞パフォーマンス。銀橋で歌うスポンジボブ役イーサンの動きに合わせてステージ下手側のパーカッショニストが効果音をつけている。
本来はもっと多くの楽器に囲まれているが、劇場でもこのスタイル。効果音担当でパーカッションを一人専属で配置、しかもステージ下手サイドにブースを設けて観客に可視化したのが素晴らしい!
効果音といってもスライドホイッスルやカウベルなど単純なアナログ楽器によるものが大半。サンプリング音の利用は最小限に抑えているから見た目にも面白く分かりやすい。
この効果音はオープニングナンバーBikini Bottom Dayで多用することで、リアルタイムで専属パーカッショニストが効果音をつけていることを観客に印象づける。
更には曲中でスポンジボブが”Hello, Guy making of a sound!”と呼びかけた後にスポンジボブのポージングに効果音をつける場面があり、子供にも確実にその仕組が分かるようになっている。

ちなみにこの部分の振り付けと決めポーズは、効果音担当パーカッションの方も一緒に演じている。彼もオケというよりは出演者の一人なのだ!
もしロングランしていたら、一度は真横の席に座ってステージ上はそっちのけで彼のパフォーマンスを見てみたかったw
そのぐらい、この効果音担当パーカッショニストの存在は素晴らしかった!

マエストロ大活躍

ミュージカルでオーケストラの指揮者が劇中で何らかの役割を担っていることは珍しくない。さっきのトニー賞パフォーマンスのハイライト前にイカルド(Squidward)にシルクハットを渡すのも本当は指揮者の役目。
その程度は他の作品でもよく見かけるレベルだが、この作品の指揮者はとにかく色々なことやらされる。写真のようにオケピットは舞台下だが、指揮者は指揮ブースは目立つようになっていてステージとの絡みで大活躍する
舞台上との小物のやり取りのみならず、ちょっとした小芝居やままごともどきまでw
10じゃきかない、おそらく20以上のアクションがあったんじゃないだろうか?再見する機会があったら、数えてリスト化したかった。(いやマジで)

開演前には舞台上手の袖で、バンドがハワイアン風の音楽を演奏しているのだが、その中でラッパを吹いている彼女が実は指揮者。
意図的に女性を選んでいるのだろう。舞台上とのからみが多いから女性の方が世界観に馴染みやすいのではないかと想像。
ちなみに隣でギロ?かなんかを持っているのは前述の効果音担当パーカッショニスト。
開演直前まで演奏は続き、時間になると指揮者とパーカッションの二人は持ち場に移動し残りの三人は退場する。
退場する三人に比べて観客の目の前で移動する二人は服装も派手、ようは衣装ってこと。
やはりこの二人は出演者扱いなのだ。

効果音の方と同じく、オープニングナンバーで舞台上と何度も小物のやり取りを行うことでその存在をアピール。
スポンジボブも途中で「マエストロ」と呼びかける。彼女もこの作品の魅力の3分の1を担っているw

美しいセットと素晴らしい演出

まず、セットが素晴らしい。
舞台上だけではなく、ステージサイドから客席後方まで装飾が施されていて一歩足を踏み入れただけでその世界観に圧倒される。

人間が出したゴミが海底に沈んでいると考え、日用品を多用してつくられていることもあって、見た目がゴージャスというわけではないのだが、ものすごく手間ヒマかかっているのがよく分かる。

写真の舞台両サイドにある巨大なオブジェは劇中でピタゴラスイッチ的に可動し派手な演出を見せてくれる。
他にも小道具を使うなどアナログ的演出が多く、流行りのプロジェクションマッピングはアナログでは難しい部分でセットに投影するなど補助的利用に留まっているのが好印象。

これなんかもスポンジをモチーフにしているのだろうが、印象が強くて良い演出。
凝った仕掛けがある一方で、一目瞭然でタネが分かるチープな手品もどきの演出など、とにかく創意工夫にあふれている。
スポンジボブはBW的にもビッグプロジェクトの部類だが、金の力をひけらかす感じじゃないのだ。
残り3分の1の魅力はこの舞台セットと演出。

出演者は?楽曲は?ストーリーは?といわれそうだが、そのへんはまとめて2割。
計120%の魅力がスポンジボブにはあるということでw

スポンジボブミュージカルの弱点

ジュークボックではないオリジナル楽曲のミュージカルとしては異色の全曲別のソングライターによる提供!
なんでも最初にシーンを決定して、それぞれその場面にあうジャンルを得意とする人に依頼したとか。
そのおかげでロック、ポップス、ラップ、ゴスペルなどバラエティ豊かで魅力的なナンバーがそろったといえる。

だけどこの手法にはデメリットもあると感じた。
一つはある曲のメロディが他の曲にも使われることで、場面感のつながりを連想させるというミュージカルでよくある手法が使えないこと。
曲自体のリプリーズ(繰り返し)はあるが、主要なメロディが全体を通して何度も繰り返されることで強く印象に残るということはない。
そして、もう一つは制作過程で曲のカットなど変更が難しいのではないか?一人のソングライターが一曲を担当する形式だと、ボツ曲を出しにくいんじゃないだろうかと想像するのだ。
頼んだソングライターが大御所揃いだからといっても、当然リテイクはあっただろうし、場合によっては全く新しい曲を書いてもらったかもしれない。
だが、「トライアウトの結果、このシーンは必要ないと判断したのであなたの曲はカットします」というのは無理なんじゃないかって思うわけ。
当然報酬は払うにしても結果として作品から外されるわけだし、それをするには集めたソングライター陣が豪華過ぎる。
一人、もしくは少数のソングライターが複数曲を提供するのならば、「10曲必要と考えていたけど長いので9曲にします」みたいなことは簡単だろう。ボツ曲はアラン・メンケンやロイド=ウェバーのような巨匠にも存在する。
だけどスポンジボブでは「流れが悪いからこのシーンはカット」ということはなかったんじゃないだろうか?
実際、上のシカゴのトライアウトのあとにリリースされたサントラの収録曲はBW版にも全て存在している。
BW版ではカットするから、サントラにも収録されなかった曲というのはあるのかもしれないが…(動画が出回っているから確認することは可能か)

BW版をご覧になった方と話をしたことがあるが、その方は「楽しかったけど途中でちょっとダレた」という意見。「海賊とかいらないんじゃですか?」ともおっしゃられていた。
確かに海賊は本編と関係ないキャラだから、どこかカットするなら第一候補になると思う。でも海賊をカットしたらSara Bareillesがお役御免になってしまう。
ソングライター関連の視点からだけではなく、後で触れるが全キャラにスポットライトを当てる構成になっていることからも、脚本の手直しは非常に難しいのではないかと感じた。

とはいえ、それらを補う魅力が!パワーが!スポンジボブにある!!!

造り手に感じる愛

どこかで見たのだが、演出家のTina Landauはスポンジボブに関してはそれほど明るくはなかったそうだ。
そんな彼女が作り上げた舞台は原作ファンに楽しんでもらいたい!という愛にあふれている。

  • 客席内に足を踏み入れた瞬間に目の前に広がる作り込まれた舞台セット。舞台袖には溢れんばかりのオブジェ。開演前から流れる生バンドの演奏。
    どれも世界観を作り上げる効果は大きいが、手間もかかるのでここまでやる舞台はそう多くはない。
  • 登場するキャラクター全てにスポットライトをあて見せ場を用意。
    例えば前述の海賊はネットで軽く調べると、アニメでも本編とはあまり関係ないキャラクターのようだ。おそらくはそれが理由で1,2幕ともに冒頭に登場し本編開始前に退場させれられるのだろうが、人気があるのか2幕では1曲もらっている。流石に全てのキャラクターに歌があるわけじゃないが、セリフはある。
    カテコでも主要キャラクター担当の俳優だけでなく、アンサンブルキャストも担当したメインキャラの扮装で個別に挨拶する。
  • 楽曲は実は全曲オリジナルではなく、ラスト前のBest Day Everはアニメで使われた曲だとか。クライマックスにオリジナル曲を用意せず、あえてアニメの曲を使用するのが、原作への敬意とファンへの気遣いを思わせる。
    更にはカテコの挨拶後のチェイサーにアニメのテーマ曲である”Spongebob Squarepants Theme Song”を持ってくるのだが、ここでは客席を巻き込んでの盛り上がりを演出。これもファンサービスだろう。

ここまでやってくれるとファンじゃなくても目頭が熱くなるってもんだw
とことんエンタメに徹底したその姿勢はもっと評価されるべき! などとトニー賞にちょっと恨み節w

最後に

「シカゴのトライアウトの時点でBWに持っていったからといって、収支的に大成功!は無いとある程度予想できたのに、ニコロデオンはBW上演をしてくれた」
という意味に捉えているが、本当にニコロデオンには感謝しかない。
他のブログで見たところでは相場を遥かに超える予算をかけて制作されたこの作品。ある意味採算度外視だったのは間違いない。
それは今後もBWへのチャレンジが続くことを意味していると信じている。
スポンジボブ単発で終われば「単に赤字を出して撤退」というカッコ悪い結果が残るだけだからね。
ニコロデオンにはディズニーとは違った方向でBWミュージカルを作り続けていくことを期待したい!

 

さっきのツイートの続きだが、演出家のTinaによるとスポンジボブミュージカルは撮影されているらしい!!!
今後ツアーも控えているのですぐには無理だろうが、いつかソフト化されることを願っている。
実際、2009年にBWで開幕したShrek the Musicalがオリジナルキャストで撮影した映像を、ツアーとWE公演が終わったあと2013年にリリースした例があるのだ。(Shrekも楽しめるので見て欲しい)

ありがとう “SPONGEBOB SQUAREPANTS THE BROADWAY MUSICAL” 愛してるよ!

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